広島地方裁判所 昭和52年(行ウ)14号 判決 1980年10月01日
原告 光宗町子
被告 広島市長
代理人 麻田正勝 清水龍三 井山武夫 ほか二名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し別表一の換地処分に伴つてした昭和四五年一月一〇日確定の別表二の清算金処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は別表一記載の従前の土地の所有者であつたところ、被告は昭和四四年一一月一五日原告に対し、広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業(以下本件土地区画整理事業という。)の施行者として、別表一のとおりの換地処分に伴う別表二のとおりの清算金処分(以下本件清算金処分という。)を通知し、右処分は昭和四五年一月一〇日に確定した。原告は、右通知を受けた後、広島県知事に対し審査請求をしたが、同知事はいまだに裁決をしていない。
2 しかしながら、本件清算金処分には次のような各違法事由が存するので取り消されるべきである。
(一) 被告は、公共用敷地(道路、公園、学校その他の公共施設)に当てる目的をもつて共通減歩地積の名称の下に従前地の地積の三九パーセントを一率に、かつ一般的に減歩し、減歩の結果算定された換地地積に基づいて換地処分をしたうえ、右換地地積と現実に換地された地積とを比較して過不足を決定したもので、共通減歩地積は清算の対象とはしていない。このような本件清算金処分は、憲法二九条三項に違反するうえ、土地区画整理法九四条所定の従前地とは、文字通り従前の土地を意味するのであつて、区画整理事業施行の政策上設定された観念的な換地地積を指称するものではないから、同条にも違反する。
(二) 被告は、本件清算金処分の確定時点(土地区画整理法一〇四条七項参照)が昭和四五年一月一〇日であるにもかかわらず、昭和三〇年三月末を清算金算定の基準時としているが、土地評価の本質上、土地価格の変動を無視することはできないところであり、清算の意義と本質に照らすと、換地処分時における清算をもつて最も合理的、合法的なものと言うべきであるから、本件清算金処分はこの点においても違法である。
(三) 土地区画整理法九四条は、評価および清算が何人も首肯し得る合理的な標準に依拠すべきことを命じているものと解されるところ、土地区画整理設計標準(昭和八年七月二〇日発都一五号各地方長官、各都市計画地方委員会長あて内務次官通達)によれば、従前地の評価は、我が国における税政上多年にわたつて採用されてきた土地評価の大原則である賃貸価格を基準としてすべきこととされている。ところが、被告は、何らの理由もなく右評価方法を採用しなかつたばかりか、従前地に対する独自の評価基準も有さなかつた。
(四) 被告は、換地の総評価格を一億四三五八万〇九〇七個、従前地の総評価格を一億二八四一万一〇九八個であるとし、両者の比例比率一・一一八をすべての清算金処分対象土地に適用して評価している。しかしながら、土地区画整理法九四条は、あくまで対象土地の価値を個性的かつ現実的に対比して清算せよと命じているのであつて、事業施行地域全域の事業施行時期前後の価値を対比して清算せよと命じていないのであるから、事業施行全域の価値対比を個々の土地の評価に適用するがごときは著しく評価の適正を欠く。
3 よつて、原告は本件清算金処分の取消を求める。
二 請求原因に対する認否および反論
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の主張はいずれも争う。各主張に対する反論は次のとおりである。
(一) 土地区画整理事業は、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善をするとともに、土地の区画形質の変更をすることによつて土地の利用の増進と健全な市街地の造成を目的としている(土地区画整理法一、二条参照)ところ、本件土地区画整理事業においても、道路、公園等の公共施設の新設または変更のために相当の地積が当てられているけれども、これは、戦災によつて灰燼に帰した広島市を復興し、健全な市街地の造成と宅地利用の増進を図るためのものであるから、土地所有者らは所有権に内在する社会的制約としてこれを受忍しなければならない(憲法二九条二項参照)。しかも、本件土地区画整理事業においては、地積は減少したけれども宅地の利用価値が全体的には増加しているため、土地区画整理法一〇九条所定の減価補償金の問題も生じ得ないのである。したがつて、本件土地区画整理事業における土地の減少は財産権の侵害とはならない。また、共通減歩地積は、右公共用地の負担を各換地整理後の土地の状況に応じて合理的に配分する方法であるから、この点においても何ら違法の点は存しない。
(二) 清算金制度は、土地区画整理事業の施行による宅地の利用増進という事業効果を施行地区内の宅地等の権利者に不均衡が生じないように還元することを目的とする制度であるから、清算金の算定は不均衡が現実化した時点を基準とすべきところ、右時点は、すなわち土地区画整理事業効果が表面化してきた時点であり、事業効果の表面化する時点とは、工事の概要が現実に明らかになつた時点、すなわち工事概成時である。そこで、被告は、昭和三〇年三月頃には、概ね仮換地上への建物の移転ないし街路工事も完成していたこと、ほとんどの土地所有者も、同時点において事実上権利関係が確定したものとして、これを使用収益し、あるいは、昭和四四年当時の時価を基準とした清算金を徴収されることになるなどとは全く予想もせずに、これを処分していることなどの理由により、右時点を事業施行の効果が施行地区全域に実現し、利用価値の不均衡が表面化した時とみて、清算金算定の基準時とした。土地区画整理法一〇四条七項は清算金は換地処分の公告日の翌日に確定する旨規定するが、これは必ずしも清算金の算定基準時が換地処分時であることを意味するものではなく、ここにいう「確定」とは、清算金の徴収、交付の権利義務がその時に具体化することであつて、右の確定時と算定基準時とを同一に解すべき論理的必然性は何ら存しない。また、同法は、換地計画において清算金額を明示することを要求している(八七条三号)一方、仮換地に先立つて換地計画が策定される場合をも予定し(九八条一項本文後段)、換地処分は工事が全部終了した後でなければ原則としてすることができないとしている(一〇三条二項)のであるから、清算金額が定まつてから換地処分に至るまでに相当の時間的間隔のあることを当然に予定している。このような場合、換地処分時を基準時として清算金を算定することは不可能であり、それより相当前の時点を基準時として算定すべきこととなる。
(三) 土地区画整理設計標準は、施行者が土地区画整理事業施行規程を作成して土地区画整理事業を実施するに当たり、参考に供するための一般的な標準案であつて、必ずしもこれに依拠しなければならないものではない。そして、特別都市計画法および土地区画整理法には、土地区画整理を実施する際の評価方法について何ら規定するところはないのであるから、施行者は、土地の評価に当たつては、右施行規程の定めるところにより、従前地各筆について、その位置、区画、土質、利用状況、環境等を考慮して最も適正な方法により評価できる。
(四) 比例比率と個々の宅地の評価とは別個のものであつて、換地後の個々の宅地の評価は、比例比率を前提としたうえで、各路線価を基準にし、個々の土地に応じて修正されてなされている。
三 被告の主張
1 本件土地区画整理事業における清算金の算定方法は次に述べるとおりである。
(一) 換地指定の方法(客観的換地を確認する方法)
原子爆弾の投下により広い範囲において壊滅的な被害を被つた市街地を一日も早く復興させる必要があつたこと、区画整理を行うに当たり多くの市民から早急に換地指定を行つてほしいとの強い要望があつたこと、また原子爆弾等により多くの市職員および資材を失つたことから、広島市においては最も迅速かつ簡便に換地を指定できる方法として面積式(地積式)計算方式を採用した(広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業換地準則((昭和二二年八月二〇日制定。以下換地準則という。))一一条)。これは、公共用地に当てるための地積(減歩地積)を従前地各筆に合理的に負担させる方法であり、これを式で示すと、換地地積=従前地の地積+加算地積-(地先減歩地積+共通減歩地積)で表示することができる。そして、共通減歩地積とは地先減歩によつて負担させられない道路の部分、公園、河川等のための減歩地積を言うものであり、これらは原則として権利地積(従前地の地積+加算地積)に比例して負担するものである。
(二) 従前地の評価方法
(1) 現地換地の場合(広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業土地評価基準((以下土地評価基準という。))四条参照)
現実に換地された地積が前記の換地地積と一致していて過不足がない場合には、従前地の価格は換地の価格と同額である、ということを基本とする。そして、換地が過渡しになつている場合、すなわち換地に対応する従前地(権利地積)が不足する場合は、その不足する従前地の地積(徴収地積)を換地地積に換算して評定価格を算出し、その価格を換地の評定価格より控除した価格をもつて従前地の価格とする。逆に、換地が不足渡しになつている場合、すなわち換地に対応する従前地(権利地積)が超過している場合は、その超過する従前地の地積(交付地積)を換地地積に換算して評定価格を算出し、その価格を換地の評定価格に加算した価格をもつて従前地の価格とする。
(2) 飛換地の場合(土地評価基準六条参照)
飛換地先で現地換地したものと仮定して右の現地換地の場合の評定価格によつて従前地の評定価格を求め、これを従前地と飛換地先の道路の路線価比および減歩比により修正する。
(三) 換地の評価方法
路線価式評価法により算定した。
(四) 清算金の算出方法
(1) 比例清算方式を採用した。これは、土地区画整理事業施行前と後との宅地価格が同額とならない場合において、その差額相当額を従前の各筆宅地価格に比例配分して整理前と後との宅地価格を同額とし、各筆清算金を定める方法であるところ、これにより清算金の徴収額と交付額の差異をほとんどなくすことができるし、右差額相当額の割合を従前の宅地各筆に乗ずることにより従前の宅地各筆に対し最も公平に与えられるべき換地各筆の価格を算出することができるから、この清算方式は土地区画整理法九四条の趣旨によく適合するものと言える。
(2) 前記の従前地各筆および換地各筆の評価の結果、従前地の総評価格は一億二八四一万一〇九八個と、換地の総評価格は一億四三五八万〇九〇七個とそれぞれ算出されたので、比例比率(右にいう差額相当額の割合、すなわち換地の総評価格を従前地の総評価格で除して得た数値)は一・一一八となつた。
(3) 従前地および換地の評価は路線価指数で表示されるので、この指数の単価を本件土地区画整理事業における工事概成時である昭和三〇年三月末の評価額によつて算出し一二〇円とした。
(4) そこで、従前地の評定価格(指数)に一・一一八と一二〇円を連乗して得た額と換地の評定価格(指数)に一二〇円を乗じて得た額とに差額が生じた場合に、その差額が徴収または交付されるべき清算金となる(広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業施行規程((以下施行規程という。))二一条参照)。
2 本件清算金処分における清算金は次のようにして算定した。
(一) 原告の所有に係る従前地は、皆実町一丁目一四六番の二ほか三筆で、土地台帳面積の合計は八五坪三合、加算地積の合計は五一坪七合四勺で、合計一三七坪四勺が権利地積となつていた。これに対し、現実の換地地積は五七坪五合三勺であり、他方、この換地を指定するためには権利地積一五八坪九合六勺が必要であり、原告の権利地積と比較した場合、原告の従前地地積は、二一坪九合二勺不足することとなつた。これを算式で示すと別表三の1のとおりである。
(二) ところで、本件換地には、正面九〇個、側方四五個の路線価指数が設定されており、土地評価基準に基づき計算したところ、換地評定価格は六三二八個となつた。
これを算式で示すと別表三の2のとおりである。
(三) これにより、前記(一)の不足する従前地地積二一坪九合二勺を換地地積に換算した面積七坪九合四勺の評定価格を算定したところ八七三個となつたので、換地評定価格六三二八個から八七三個を減じて得た五四五五個が、従前地の総評定価格となつたものであり、これに基づき従前地各筆の評定価格を算定したところ、皆実町一丁目一四六番の二については四一四個、同一四七番の二については二六〇四個、同一四七番の四については二四〇一個、同一四九番の一については三六個の評定価格となつた。
これを算式で示すと別表三の3のとおりである。
(四) 以上に基づき清算金を算出すると別表四のようになる。
3 以上のとおりであるから、本件清算金処分は、合理的な基準に基づくもので適法である。
第三証拠 <略>
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、以下、本件清算金処分に原告主張の各違法事由が存するか否かについて検討することとする。
1 <証拠略>を総合すると、
(一) 被告は、本件土地区画整理事業を施行するに当たり、土地区画整理法六六条に基づいて施行規程(昭和三一年一月一一日規則第二号―<証拠略>)を定めた。この規程は本件土地区画整理事業の基本的な事項を定めたものであるが、土地の評価については、従前の土地及び換地の各筆の評定価格は、評価員の意見を聞いて、その位置、地積、区画、土質、水利、利用状況、固定資産税の課税標準、環境等を斟酌して定める(同規程一九条)ものとし、清算金については、従前の土地の評定価格と換地の評定価格との差額を換地清算に関し徴収又は交付すべき清算金の額とする(同規程二一条)ことにしている。そして、被告は、同規程一九条所定の従前の土地及び換地の各評定価格の算定方法を具体的に定めるものとして、土地評価基準(<証拠略>)を作成した。
右基準によると、土地各筆の評定価格はすべて指数をもつて表わすものとされ(同基準二条)、換地の評定価格の算定は路線価式評価法によるものとされている(同基準一条、別表)が、一方、従前の土地の評定価格の算定方法については、現地換地の場合、従前の土地の評定価格は換地の評定価格と同価格になるように算定するのを原則とするが、換地交付の結果、徴収交付地積が生じている場合は、当該地積を換地地積に換算してその評定価格を算出し、これを換地の評定価格から、徴収の場合にあつては減じ、交付の場合にあつては増したものをそれぞれ従前の土地の評定価格として算定するものとされ(同基準四条)、飛換地の場合には、従前の土地の位置において現地換地した場合の路線価と飛換地先の路線価の比により右に準じて算出した評定価格を修正し、さらに、右の各換地の道路幅員が異なるときはそれぞれの換地奥行一一間の場合の所要地積の比により修正して算定するものとされている(同基準六条)。さらに、被告は、右土地評価基準所定の換地の地積を求めるにつき、施行規程に基づいて換地準則(<証拠略>)を定めた。この準則によると、従前の土地各筆に対する換地地積は、従前の土地各筆の地積(原則として昭和二〇年八月一五日現在の土地台帳地積―施行規程一七条)に加算地積(正面、側方、背面各道路の地積の一部―換地準則一二条)を加えたものから減歩地積を控除した地積を標準にすることとされ(同準則一一条)、右減歩地積は地先減歩地積(整理施行後において道路敷地につき個々に負担すべき地積―加算地積に準じて算定する。)と共通減歩地積(換地地積に対し平等に減歩すべき地積で、整理後の公共用地((道路、広場、水路、公園等))及び鉄道、学校その他公用地の拡張用地等の減歩総地積から地先減歩総地積を控除した地積)とに区分されている(同準則一三条)。
(二) 被告は、昭和二一年度から本件土地区画整理事業に着手し、道路、公園、広場等の公共施設を拡張ないし新設しつつ、工事を進めたが、昭和三〇年三月末には、施行地区全域にわたつて、仮換地の指定(約八六パーセント完了)による建物等の移転や街路工事等が概ね完成し、新しい街区の形態が整備された。右工事の完了後、被告は、前記(一)において掲げた各規定に従つて清算金処分を行つた(本件清算金処分の算定方法は被告の主張2に記載のとおりであつた。)が、右処分に当たつては、従前の土地及び換地の評価指数(路線価指数)を金額に換算するための指数一個当たりの単価につき評価員及び土地区画整理審議会の意見を聞いたうえ昭和三〇年三月末を基準時としてこれを一二〇円と定め、また、共通減歩地積を一律に換地地積の三九パーセントとした。そして、従前の土地及び換地の評価指数を求めた結果、従前の土地の総評価指数は一億二八四一万一〇九八個であつたのに対し、換地の総評価指数は一億四三五八万〇九〇七個になつた(後者の前者に対する比率一・一一八)。
以上の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
2 そこで、右認定の各事実に基づいて、原告主張の各違法事由につき以下それぞれ検討する。
(一) 違法事由(一)について
(1) そもそも、土地区画整理事業は、健全な市街地造成のために、公共施設の設備改善及び宅地の利用増進を目的としているものであり、公共施設の整備改善によつて宅地の利用が増進され、宅地の利用価値が増加することを予定しているものである。したがつて、施行地区内の宅地全体の利用価値が増加して換地の総評価格が従前の土地の総評価格に対して不足がないならば、従前の土地が公共施設用地によつて減歩されたとしても、そのことをもつて直ちに私有財産権が侵害されたということは言えないこと明らかである。そうすると、本件土地区画整理事業においては、前認定のとおり、道路、公園、広場等の公共施設が整備改善され、換地地積の三九パーセントが右公共施設用地(ただし、道路敷地については地先減歩地積を控除した地積)に当てられてはいるものの、換地全体の総評価格は従前の土地全体の総評価格を上回つているのであるから、本件施行地区内における宅地全体の利用価値は右公共施設の整備改善等によつて増加し、相当減歩されたにもかかわらず従前の利用価値を維持していると言うことができる。してみると、原告は、主張のように減歩されたからといつて、私有財産権を侵害されたことにはならず、右減歩分が清算の対象にされていないことをもつて直ちに本件清算金処分が憲法二九条三項に違反するものとは言えないところである。
(2) また、土地区画整理法九四条所定の清算金の制度は、換地処分の結果施行地区内の各宅地間に生ずる不公平を過不足なく公平ならしめるため、過不足額を、不当に利得した者からはこれを徴収し、損失を受けた者にはこれを交付し、もつて金銭で清算しようとするものである。そうすると、前認定のとおり、共通減歩地積は施行地区内の宅地がすべて一律同率に負担しているものであるから、共通減歩地積の負担につき施行地区内の各宅地間に不公平が生ずることはなく、したがつて、共通減歩地積を清算の対象としないことが直ちに土地区画整理法九四条違反を招来するものでないことも明らかである。
(3) されば、この点に関する原告の主張は理由がない。
(二) 違法事由(二)について
(1) 土地区画整理法によれば、換地処分を行うためには換地計画を定めなければならない(八六条一項)とし、右換地計画には清算金の額を定めなければならず(九四条、八七条三号)、そして、右換地計画は公衆の縦覧に供した(八八条二項)うえ、都道府県知事の認可を受けなければならない(八六条一項)とそれぞれ規定されている。してみると、法は、換地計画の作成から換地処分の終了まで相当の日時が経過することを予定しているものと言わねばならないから、清算金算定の基準時を常に換地処分時にすべきことまで法が要求しているとは到底解し得ないところである。しかも、同法によれば、将来換地として指定せらるべき換地の位置範囲を仮に指定する仮換地指定処分は、換地計画に基づくことを要求している(九八条一項)とともに、仮換地を指定した場合には仮清算を行うことも許容している(一〇二条一項)のである。右各規定によると、法は、仮換地指定処分以前の時点を清算金算定の基準時とすることをも許容しているものと解されるのであるから、施行者は、前述の清算金の制度の趣旨に照らして各宅地の権利者に不利益を被らせない合理的な時点を清算金算定の基準時として選定できると言わねばならない。
(2) そこで以上の見地に基づき、本件清算金処分の基準時につき検討するに、前認定のとおり、本件土地区画整理事業においては、昭和三〇年三月末の時点で仮換地の指定は約八六パーセントが完了し、建物等の移転や街路工事等も概ね完成していたのであるから、右の時点(すなわち工事概成時)においては従前の土地の評価も、換地処分後の土地の評価も最もしやすく、且つその評価もあまり開き過ぎなくて妥当と言うべく、したがって、右時点を清算金算定の基準時としたとしても各宅地の権利者に不公平、不利益等を被らせることはないと言わなければならない。
(3) よつて、本件土地区画整理事業工事概成時である昭和三〇年三月末を清算金算定の基準時とした被告の所為には何ら違法はなく、この点に関する原告の主張も理由がない。
(三) 違法事由(三)について
(1) 土地区画整理法は、換地を定める場合には、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない(八九条一項)とか、清算金の算定については従前の宅地及び換地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮しなければならない(九四条)などと抽象的に規定するにとどまり、具体的にどのような方式でこれを評価すべきかについては、何ら規定していないのであるから、施行者は合理性のある適当な評価方法によつて従前の土地及び換地の評価ができるものと言わねばならない。したがつて、原告の主張するように賃貸価格にのみ依拠しなければならないものではない。
(2) しかも、<証拠略>によると、土地区画整理設計標準は、土地の評価に当たり、賃貸価格のみを基準としてはおらず、その他諸々の要因を考慮することにしていること、賃貸価格等級(これに基づいて賃貸価格が定まる。)は昭和一一年頃に土地台帳に付けられたものであること、賃貸価格は地租法に基づくもので、あくまで課税の標準にすぎなかつたことが認められ、これに反する証拠はないのであるから、右事実によれば、賃貸価格のみを基準にして従前の土地を評価することは一般的、客観的にみると、むしろ合理性を欠くものと言わなければならない。
(3) そこで、被告の行つた従前の土地に対する評価について考えてみるに、前認定事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告は、換地を路線価式評価法により評価したうえ、換地地積を「従前の土地+加算地積-(地先減歩地積+共通減歩地積)」という算式によつて求め、<1>現地換地については、現実に換地された地積が右の算式による換地地積と過不足がない場合に換地と従前の土地とを同価格であるとし、過不足が生じている場合には過不足地積を換地地積に換算してその評定価格を換地の評定価格からそれぞれ加減した価格を従前の土地の評定価格とし、<2>飛換地については、飛換地先で現地換地したものと仮定し、まず、従前の土地の位置において現地換地した場合の路線価に対する飛換地先の路線価の比により従前の土地の権利地積(従前の土地の地積+加算地積)を修正して、右同様の方法で従前の土地の評定価格を算定するが、さらに、右の各換地の道路幅員が異なるときには、右の評定価格を、飛換地の換地地積(間口一間、奥行一一間)、地先減歩地積、共通減歩地積の総和に対する従前の土地の位置において現地換地した場合のその換地のこれらの総和の比(減歩比)により修正し、もつて従前の土地の評定価格を算定したことが認められる。以上によると、被告は、従前の土地を独自に評価してその価格を算定したものではなく、地積により従前の土地の評定価格を算定しているのであるから、被告が従前の土地を評価していないとは言えない。しかも、被告は、右算定において、当該宅地が道路に面しているか否か、面する道路の幅員なども考慮の対象に入れているのであるから、右算定方法は、共通減歩率が異常に多いとか、宅地の利用増進に無関係な公共施設が設けられることにより減歩されているとか、或いは工事施行地区が市街地と非市街地とにまたがつているとか等の特段の事情が存しないかぎり、合理性を有すると言わなければならないところ、本件全証拠によつても右特段の事情はこれを認めることができない。
(4) よつて、この点に関する原告の主張もまた理由がない。
(四) 違法事由(四)について
(1) 被告が、従前の土地の評定価格に比例比率一・一一八を乗じ、これと換地の評定価格との差額を本件清算金の額としたこと前認定のとおりである。
(2) そこで判断するに、そもそも土地区画整理による換地処分は、従前の土地と換地とがその評価額において同額となるように工事施行をなすのが理想であるが、右理想を完全に実現するのは困難であるので、清算金制度によつてこれを補うべく、清算金は、各宅地相互間に生じている不公平を公平ならしめるもの、すなわち、各換地相互間の利用増進の不均衡を是正するものであるところ、本件のように換地と従前の土地の各総評価格が一致せず前者が後者を上回つている場合には、施行地区内のすべての宅地につき右増加分の利用増進があつたと言えるのであるから、右増加分につき不均衡はなく、右増加分の比率(本件では一・一一八)を従前の宅地の評価額に乗じて、その額を基礎とすることによつて、従前の土地と換地との評価の同額化を図り、それでもなお差額が生じる時には、その差額を徴収又は交付することにより、各宅地(換地)間の不均衡を是正することは、まことに合理的な方法と言わなければならない。したがつて、前認定の被告の清算方式は右清算金の趣旨に最もよく合致した適正なものと言うことができる。
(3) よつて、原告のこの点に関する主張は理由がない。
三 以上の説示によると、本件清算金処分は適法であつて何ら違法があるとは言えないので、原告の被告に対する本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 植杉豊 川久保政徳 大谷禎男)
別表一
従前の土地
換地処分後の土地
所在
地番
地目
地積
所在
地番
地目
地積
広島市皆実町一丁目字10番
146の2
宅地
34.38平方メートル
(10.40坪)
広島市比治山本町
1047の1
宅地
190.18平方メートル
同
147の2
宅地
116.69平方メートル
(35.30坪)
同
147の4
宅地
127.90平方メートル
(38.69坪)
同
149の1
宅地
3.00平方メートル
(0.91坪)
別表二
従前の土地
換地処分後の土地
清算金徴収額
所在
地番
権利価格
所在
地番
権利価格
広島市皆実町一丁目字10番
146の2
5万5560円
広島市比治山本町
1047の1
75万9360円
2万7600円
同
147の2
34万9320円
同
147の4
32万2080円
同
149の1
4800円
別表三
1
(1) 従前地の地積
町名 台帳地積 加算地積 権利地積 権利地積の合計
(坪) (坪) (坪) (坪)
皆実町一丁目146~2 10.40 + 0 = 10.40 ┐
同 147~2 35.30 + 30.10 = 65.40 │ 137.04
同 147~4 38.69 + 21.64 = 60.33 │
同 149~1 0.91 + 0 = 0.91 ┘
(2) 従前地所要地積
換地地積 地先減歩 共通減歩 従前地所要
(坪) 地積(坪) 地積(坪) 地積(坪)
57.53 + 78.99 + 2.244 = 158.96
(3) 過渡地積
換地地積(坪)
従前地所要 権利地積 従前地所要地積 過渡地積
地積(坪) (坪) (坪) (坪)
(158.96 - 137.04)× 57.53/158.96 = 7.94
2
(1) 換地の区分価格
路線価指数 三角形地奥行 間口 修正率 区分価格 区分価格合計 総価格
(個) 価格百分率 (間) (個) (個) (個)
<1> 90 × 2.7114 × 9.2 × 1.0996 = 2469 ┐ 6051 ┐
<2> 90 × 3.6565 × 9.9 × 1.0996 = 3582 ┘ │
(2) 側方路線影響 │ 6294
路線価指数 側方影響加算率 側方路線影響 │
(個) 価格(個) │
45 × 12.288 × 4.4/10 = 243 ┘
(3) 設計上の換地地積
間口 奥行 区分計算地積 区分計算地積の合計
(間) (間) (坪) (坪)
<1> 9.2 × 4.4 × 0.5 = 20.24 57.37
<2> 9.9 × 7.5 × 0.5 = 37.13
(4) 坪当り価格
総価格 区分計算地積の合計 坪当り価格
(個) (坪) (個)
6294 ÷ 57.37 = 110
(5) 換地の価格
坪当り価格 換地地積 換地価格
(個) (坪) (個)
110 × 57.53 = 6328
3
(1) 従前地の総価格
換地価格 坪当り価格 過渡地積 従前地総価格
(個) (個) (坪) (個)
6328 - ( 110 × 7.94 )= 5455
(2) 従前地各筆の価格
権利地積 従前地総価額(個) 従前地価額
(坪) 権利地積の合計(坪) (個)
皆実町一丁目146~2 10.40 × 5455/137.04 = 414
同 147~2 65.40 × 5455/137.04 = 2604
同 147~4 60.33 × 5455/137.04 = 2401
同 149~1 0.91 × 5455/137.04 = 36
別表四
(1) 換地
町名 評定価格 単価 権利価額
比治山本町1047~1 6328個 × 120円 = 75万9360円
(2) 従前地
町名 評定価格 比例比率 単価 権利価額
皆実町一丁目146~2 414個 × 1.118 × 120円 = 5万5560円
同 147~2 2604個 × 1.118 × 120円 = 34万9320円
同 147~4 2401個 × 1.118 × 120円 = 32万2080円
同 149~1 36個 × 1.118 × 120円 = 4800円
計 73万1760円
(3) 清算徴収金
75万9360円-73万1760円=2万7600円